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最高裁判所第三小法廷 平成4年(オ)79号 判決 1992年10月20日

上告人

和田弘子

右訴訟代理人弁護士

大野町子

國本敏子

谷智恵子

氏家都子

高瀬久美子

養父知美

被上告人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右当事者間の大阪高等裁判所平成元年(ネ)第二三一八号従業員地位確認等請求事件について、同裁判所が平成三年一〇月一一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする

理由

上告代理人大野町子、同國本敏子、同谷智恵子、同氏家都子、同高瀬久美子、同養父知美の上告理由第二について

本件契約は二か月の期間の定めがある雇用契約であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第三ないし第六について

本件雇止めにつき、日本国有鉄道が臨時雇用員である上告人に対して従来の取扱いを変更して雇止めをすることもやむを得ない特段の事情が存しなかったものと認めることはできないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第七ないし第一〇について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)

(平成四年(オ)第七九号 上告人 和田弘子)

上告代理人大野町子、同國本敏子、同谷智恵子、同氏家都子、同高瀬久美子、同養父知美の上告理由

目次

第一 はじめに

第二 「本件雇用契約は期間の定めなき契約である」との主張に対する判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第三 原判決には、解雇の必要性判断について、理由不備、審理不尽の違法がある。

第四 「臨時雇用員を一律に第一順位とした本件解雇は合理性がない」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第五 「国鉄は解雇回避義務を尽くしていない」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第六 「国鉄は説明、協議義務をつくしていない」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第七 「本件解雇は日鉄法に違反し無効である」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽および法令の解釈適用を誤った違法がある。

第八 「本件解雇は雇用安定協約に違反し無効である」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第九 「本件解雇は性による差別であり無効である」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

第一〇 「本件解雇は解雇権の濫用であり無効である」との主張についての判断に理由不備、審理不尽および経験則違反の違法がある。

第一 はじめに

上告人は高校卒業後国鉄に採用され、爾後更新をくり返し一一年余にもわたって勤続してきた。しかるに昭和五八年九月末日、突如二ケ月の期間満了を理由に一方的に解雇されたものである。

第一、二審とも判決は、上告人に対する雇用形態と雇止めの関係について、東芝柳町工場事件の最高裁判決と同じく、実質的には期間の定めのない雇用形態として解雇に関する法理を類推すべきであるとし、また上告人の職務内容についても事務処理上「必要不可欠」なものであったと認定した。しかしそれにもかかわらず、両判決は上告人のその余の主張をことごとく排斥し去り、解雇の合理性を肯定するにいたったものである。

上告にあたって何よりも指摘したい点は、原判決が漫然第一審判決を踏襲し、ただ字句の加除・訂正のみに終始して原審における上告人の主張立証について何ら実質的な判断をしていないことである。

原審において上告人は、本件解雇の違法性について、整理解雇の必要性の不存在、女子臨時雇用員制度の差別性と脱法性、解雇回避義務の不履行、説明義務違反等の諸点から新たな事実と立証を提出し、また新たに旧日鉄法違反、解雇権濫用の諸事実について主張・立証を追加した。しかるに原判決は、解雇の合理性判断については、一一年余の勤続の実態が期間の定めの合理性を失わしめ、また業務の恒常性と必要不可欠性を認めざるをえないにもかかわらず、職員と臨時雇用員との採用形態、職務内容、労働条件等の違いに拘泥して、その脱法性と差別的取扱いの実態には一切目をそむけることにした。また解雇の必要性について、本件解雇の当時、人員削減計画は具体化していなかったにもかかわらず、その可能性はなかったとはいえないとするなど、まことに雑駁かつ恣意的な判断を行っている。加えて臨時雇用員制度はJR移行後も歴然として存在し、清算事業団近畿資産管理部においては、新規に四名もの女性臨時雇用員が採用されているという重大な事実を見逃している。原審での証人大南幸子はまさにその一人である。退職金に関する算定基準・根拠の不当性についても、上告人らは重大な説明義務違反として書証にもとづき詳細に指摘した。しかし原判決はただ本件解雇と直接関係ないとしてこれを一蹴している。

以上のように原判決はひたすら第一審判決に固執し、上告人の新たな主張、立証については一顧だにしていないのである。このことは原判決が、その基本姿勢において国鉄に肩入れするあまり、本件解雇にかかわる重大な事実を見過ごし客観的視座を見失ってしまった結果であるといっても過言ではない。また、改めて事実の認定と法的判断をし直す原審としての性格からみても審理不尽のそしりは免れず、ひいては憲法上認められた国民の裁判をうける権利を不当に侵害するものと言わざるをえないのである。

なお今日見過ごすことのできない社会問題に、上告人のような臨時雇をはじめ、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣労働者などいわゆる不安定雇用労働者の増加がある。賃金その他の労働条件で正規社員よりはるかに低位におかれかつ景気変動の調節弁として取扱われている。雇用期間の定めは単に形式的なものにすぎず、勤務形態や職務内容において正規社員とかわりないのが実態である。これまで、臨時やパートという名目だけで不当な差別的取扱いや雇止めに、働く権利を奪われ泣き寝入りを強いられたケースはあとを絶たず、適正な救済もないままに放置されてきた感がある。今こそ、こうした実態に司法こそ鋭くメスを入れるべきときであり、本件はまさにその一つにほかならない。

貴庁においては以上の視点を踏まえ、改めて解雇法理の厳格な適用により厳正公平な判断をされるよう強く求めるものである。

第二 「本件雇用契約は期間の定めなき契約である」との主張についての判断に理由不備、審理不尽の違法がある。

一 本件雇用契約の期間の定めの有無に関し、原判決は第一審判決を支持し、「本件契約はあくまでも二カ月の期間の定めがある雇用契約であると認めることができる。…また更新を繰り返すことにより期間の定めのないものに転化したと認めることもできない」旨判示している。

しかし、第一・二審判決いずれも右認定を根拠づける説得力のある理由を示さぬまま「期間の定めのある契約」であると結論づけている。

二 すなわち第一・二審において、

<1> 上告人採用時に、大阪工事局採用担当者から「二カ月の期間は形式的なものであり、長期間継続して働いてほしい」旨の説明を受けていること

<2> 二カ月の契約更新手続は全く形骸化していたこと

<3> 国鉄当局自身が昭和五九年一二月内部向けに発行した「国鉄の勤務制度その解釈と運用」において臨時雇用員を「季節や時間帯によって発生する臨時的業務に対応するため雇用契約される者」と定義づけているが、上告人ら臨時雇用員の職務内容は課内の事務処理にあたり必要不可欠の恒常的な仕事であり、右臨時雇用員の定義に該当しないこと

<4> 本件雇用契約は「雇止め」ではなく、「解雇」の手続が採られていること

等の諸事実が認定されている。右事実は本件契約が期間の定めある契約であると認定する上において十分否定的証拠となるにも拘わらず、第一・二審判決は何の理由づけもなく、右事実等を列挙、認定した上でむしろ「期間の定めのある契約」の根拠としている。

又、上告人は第一・二審において「期間の定めのない契約」であることの根拠となる諸事実を列挙して、当局・臨時雇用員当事者の意思、臨時雇用員制度等の法的側面及び実態のいずれの観点からも本件雇用契約は当初から期間の定めなき契約であることを明らかにしている。にも拘わらず、原審にはかような諸事実を総合的に検討するという観点が全く欠如している上、各事実について理由も示さないまま「期間の定めのない雇用契約であるとすることはできない」と短絡的に結論づけているのである。すなわち、「控訴人の職務は、大阪工事局における恒常的な職務であって『季節や時間帯によって発生する臨時的業務』には当たらない」としながら、直ちに「右事実をもって本件契約が期間の定めのない雇用契約であるとすることはできない」と結論づけているのである。

三 更に本件雇用契約の解雇手続が雇止めでなく「解雇」とされていることについて国鉄当局が上告人に交付した国家公務員等退職票に退職事由として「業務量減少による解雇」と明記し、上告人に退職予告書を交付し、解雇予告手当金を供託した事実、また臨時雇用員就業規則に基づき解雇手続をとっている事実について、原判決は「これらは大阪工事局において期間満了による雇止めであっても契約期間中の解雇と同じ慎重な手続を採ったものと解せられるので、右各事実をもって本件契約が期間の定めのない雇用契約であるとすることはできない」と判示している。

しかし、期間の定めの有無―解雇か雇止めかは解雇法理や整理解雇の法理の適用という側面からも労働者の雇用安定―労働権を保障する上で基本的かつ重要な労働条件である。しかるに如何なる証拠を根拠に「期間満了による雇止めであっても契約期間の解雇と同じ慎重な手続を採ったものと解せられるのか」何ら明らかにしていない。

四 結局、第一・二審とも本件契約が二カ月の期間の定めのある雇用契約であるとする説得力ある理由づけは何もなく理由不備、審理不尽の違法があることは明らかである。

仮に労働条件の差異をその理由づけとするならば、それはまず業務の実態から判断すべきであるということを看過しており、又労働条件の差異があるとしてもそれは当局側の脱法的意図の下に、作為的に作り出されたものである(形式的に二カ月の期間を定めていること自体が違法な目的に基づく脱法行為である)ことを見落したものであり、それを根拠として、「期間の定めのある契約」であるとすることは本末転倒であると言わざるを得ない。

第三 原判決には、解雇の必要性判断について、理由不備、審理不尽の違法がある。

一 一審判決は、「本件解雇当時国鉄には解雇の必要性は存在しなかった」との上告人の主張に対し、長期に亘る国鉄再建の為の経過の中から、片面的な出来事だけを恣意的に抽出した上、時間的前後関係を意図的に並べ替えて「赤字解消が国民的課題・既に破産状態で業績改善の可能性が皆無であった」「分割民営化に移行する準備段階として人件費の削減を中心的課題に掲げていた」等の一括りにされた抽象的表現で、五八年九月時点での解雇の必要性を強引に認定してしまった。

そこで上告人は次の三点を挙げて、一審判決を批判した。即ち、

1 解雇当時の国鉄再建計画の内容は「国鉄」としての「再建」を日指すものであったことの認識がなされていないこと。

2 一審判決が、分割民営化の為の人員削減計画が具体化したのが昭和六十年七月以降であることは正しく認めながら、

<1> 「国鉄は五七年度末には既に破産状態にあり、業績改善の可能性は皆無であったこと」

<2> 「国鉄は分割民営化に移行する準備段階として、同五六年五月には人件費の削減を中心的な課題に掲げていること」

<3> 「臨時行政調査会・国鉄再建監理委員会も本件雇止め以前に同様の答申提言をしていること」

の三つの事実認定の上に立って、「五八年九月三〇日の時点で本件雇い止めの必要性が無かったとはいえない。」と判断したことは、誤った事実認定に基づく恣意的な判断である。

3 解雇後の事情を必要性判断の基礎とする一審判決の手法は誤っている。即ち、一審判決は本件解雇決定の必要性判断の一基準に、「いわゆる分割民営化に伴い、職員の一部は退職勧奨に応じ又は国鉄以外への転出を余儀なくされ、新会社に採用されなかったこと」を加えているが、このような、解雇後の、しかも再建計画の変換という事情に伴って生じた事実関係までを解雇基準に取り込むのは、明らかな誤りというべきである。

二 これらの点につき、原判決は、順不同ながら、

1 まず、前記3の解雇後の事情を必要性判断の基礎とすべきではないとの主張については、一審判決の中から「分割民営化に判う職員の国鉄以外への転出、新会社への不採用」に関する事実認定を全面的に削除した上で、新たに「本件雇止めの必要性の有無は、本件雇止め当時に存した客観的事情に照らして判断すべきものと解される」との判断をしめし、

2 さらに、前記2については、判決理由の中から上告人の批判の的となった前記<1>乃至<3>の事実認定を(いかなる説明もなく)全て削除してしまった上で「本件雇い止め当時、国鉄における職員の削減は、新規採用の原則停止・退職者不補充による方針のもとに行われており、昭和五六年の国鉄の経営改善計画に基づく要因縮減計画が順調に実行されていたことが認められる」と訂正してこの点についての上告人の主張を正しく認定したのである。

3 しかるに、結局、原判決は、前記認定に続けて「一方、当時すでに国鉄全体で余剰人員が生じ、また、工事費の削減に伴う人件費の削減が強く要請され、大阪工事局においても同様であった等、前記認定の事実に照らせば」として、結局五八年九月三〇日時点での解雇の必要性を認めた。この「前記認定」とは、具体的には原審が一審判決の事実認定部分を削除して新たに認定した事実の内、「一方、業務量の減少により昭和五八年度当初において国鉄全体で約三〇〇〇人の余剰人員が生じたが、大阪工事局においても同年度予算において工事費が大幅に削減されたため、同年度当初において余剰要員・人件費削減を強く要請され、これを避けることができないと考えられる事態におかれていたこと」をさすと思われる。

三 しかし、一審において解雇の必要性判断の基礎となった重要な事実や判断についてかかる大幅な判断の変更をしたことについて、原審は一切の説明を行っていない。一審の判断の中核部分を全面的に書き換えたと言えなくもないのに、取消し、削除、変更等の言葉を使わないことによって一審の判断の誤りを指摘することを意識的に避けたとしか考えられない。

そして、国鉄の経営改善計画に基づく要員縮減計画が順調に実行されていたことを一方で正しく認定しながら、突如として「一方、業務量の減少により昭和五八年度当初において国鉄全体で約三〇〇〇人の余剰人員が生じたが、大阪工事局においても同年度予算において工事費が大幅に削減されたため、同年度当初において余剰要員・人件費削減を強く要請され、これを避けることができないと考えられる事態におかれていた」との事実を認定し、これをもって「一方、当時すでに国鉄全体で余剰人員が生じ、また、工事費の削減に伴う人件費の削減が強く要請され、大阪工事局においても同様であった」状況に照らせば、本件雇止めの必要性がなかったとは言えないとの結果へと続くのである。

つまるところ「五八年度当初において工事費大幅削減のため余剰人員・人件費削減を要請され、これを避けることができないと考えられる事態」という、いわば主語も述語も不明確な、「大阪工事局には余剰という人はいなかった」という既に明らかとなった事実関係にも反する極めて抽象的な文言で、上告人ら臨時雇用員の大量整理解雇が正当化されたのである。

これでは、不当な一審判決よりさらに杜撰で恣意的と言うほかない。

四 そもそも、一審判決は本件雇止めの効力の判断にあたっては、解雇に関する法理を類推すべきであると認定しており、原判決もこの判断を踏襲している。しかるに、「従来の取扱を変更してもやむを得ないと認められる特段の事情の存否」につき、一審判決同様原判決も具体的検討を全く行っていない。そして、前記「一方・・」以下に述べられた、趣旨すら不明な抽象的事実認定を一つ、突如として持ち出して、当時「順調に」行われていた国鉄経営改善計画の進行との関連すら全く検討、判断することなく、一足飛びに国鉄が求めたとおりの結論が導き出されたのである。

原判決は、上告人が原審において改めて強調して述べた、前記一の1、上告人解雇当時における国鉄の再建計画の性格についての主張、及び、これを立証するための原審における島田証人の証言につき、これを無視して全く検討していない。さらに、工事局における人員削減の要請を抽象的に述べるだけで、その具体的認定も証拠の引用もなしえなかった。そしてさらに、もっとも重要な点は、一方で経営改善計画が順調に実行されている状況下で、工事費における人件費削減の要請があったとしても、解雇法理が類推される本件雇用契約において、なぜにそのようなあいまいな事情が「解雇を正当化する特段の事情」になるのかについての理由を全く述べていないのである。

五 一審判決は、本件解雇の必要性について、「臨時雇用員制度の廃止が不可欠であった」と認定して、解雇の必要性ありと認めた。これに対し、上告人は、右認定がまったく事実に基づかないものであることを、原審において、主張し、立証した。

すなわち、国鉄においては、清算事業団移行後においても、臨時雇用員制度は廃止されておらず、厳然と存在しているのであることを、第一審より、更に詳しく、主張し、大南証人、上告人本人尋問外で立証した。

ところが、原審判決は、「当事者の主張」において、「臨時雇用員制度は、国鉄が分割民営化された後も、被控訴人において控訴人が勤務していた当時とほぼ同様の形態で存在し、現に近畿資産管理部には、四名の臨時雇用員が採用され、控訴人と同様、技術職中心の職場の中で、恒常的・不可欠な庶務の仕事をしている。・・・」と付加して整理しておきながら、判決理由中において、一切の判断を怠っている。

原判決は、まず、右事実の存否を認定するべきであった。その上で、仮に、清算事業団において臨時雇用員制度が存在したとすれば、はたして臨時雇用員制度がいったい廃止されたのかどうか、また、解雇の必要性は有ったのかどうか、を判断しなければならないのである。しかるに、原判決は、右事実が有ったのか無かったのかの事実認定すらなしていない。

上告人ら臨時雇用員が一斉に解雇された後、臨時雇用員制度がその後いったいどうなったのかということは、本件解雇の必要性を判断する上で、極めて重要な事実のひとつであり、かつ、原審における、上告人の中心的な立証のひとつであったことは、裁判の経過を見れば明らかである。にもかかわらず、原判決が、この点について全く触れもしなかったということは、単に、審理不尽というにとどまらず、当事者の裁判を受ける権利すら侵害しているといわざるを得ない。

第四 「臨時雇用員を一律に第一順位とした本件解雇は合理性がない」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

上告人は、原審において、上告人、被上告人間の本件雇用契約は、「実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたこと」、「課内の事務処理にあたり必要不可欠のものであったこと」から、「本件雇止めの効力の判断にあたっては解雇に関する法理を類進すべきである。」としたにもかかわらず、正規職員と臨時雇用員の採用形態・条件、職務内容、労働条件等の差異を理由に、臨時雇用員を一律に第一順位として解雇した本件解雇を有効であるとした第一審の判断の誤りとして、以下の点を指摘し主張した。

すなわち、<1>本件雇用契約は契約当初より期間の定めなき契約であり、少なくとも「実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していた」のであり、<2>職員と臨時雇用員との間には採用形態・条件、労働条件等に差異をもうけたこと自体が、解雇を制限する判例法理を潜脱し、職員に比べ不当に低い労働条件での雇用を意図した脱法的な行為であったし、<3>本件臨時雇用員の職務内容は、一般的な会社において正規の事務職員が通常行う職務内容と同様なものであり、「課内の事務処理にあたり必要不可欠のもの」であり、正規の事務職員の「職務内容」と実際上区別されず、「代替性」においても合理的な差がなかったのであるから、正規職員と臨時雇用員の採用形態・条件、職務内容、労働条件等の差異を理由に、臨時雇用員を一律に第一順位とする解雇を有効とはなしえないとの点を具体的に指摘した。

ところが、原審は右上告人の主張に対し何らの判断もせず、無為に、文字通り第一審の判決をなぞったのみの判決をしている。

よって、原審には、審理不尽、理由不備の違法がある。

第五 「国鉄は解雇回避義務を尽くしていない」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽、経験則違反の違法がある。

上告人は、原審において、国鉄当局が本件解雇に際して解雇回避義務を尽くしていないことについて、<1>要員確定がなされていない <2>希望退職の募集をなしていない <3>出向、配転等の努力をなしていない <4>再就職斡旋について、の各点について、主張し、立証した。

ところが、原判決は、右<1>、<3>の各点については、判断を全くなさず、<2>、<4>については、十分に証拠を吟味することなく、全く恣意的な判断をなしている。

一 「要員確定、余剰人員確定がなされていない。」との点について

第一審判決は、国鉄当局が、余剰人員の確定作業を行なっていない、という明白な事実を認定しなかった。

この点について、原判決は、「当事者の主張」において、「削減すべき余剰人員を確定する作業を全くせず、」と事実の整理をしておきながら、理由中において、右の点についての事実認定をなさず、何らの判断をしなかったのである。

しかしながら、整理解雇をなすにあたって、まず、いつの時点で、いったいいくらの人員が余剰となっているのかを確定することは、使用者としてなすべき当然の前提である。そして、国鉄当局が、余剰人員の確定をなしたのかどうかは、本件解雇が適法であるか否かの重要な要素である。

したがって、原判決は、余剰人員確定作業がなされたのか否かについて、事実認定をなし、その上で、仮に右確定作業がなされていないのであれば、その不存在が、回避義務を尽くしていたかどうかを更に判断しなければならなかったはずである。

ところが、原判決は、右事実について、判断をまったく怠ったのである。

二 希望退職の募集、配転可能性の追求について

原判決は、国鉄当局が希望退職の募集もなさず、配転可能性を追求することもなかったことを認めながら、それが、解雇回避義務違反にならないと結論付ける。原判決はその理由として、一般事務補助職が全員余剰であったとか、国鉄の他の部局へは配転は不可能であったとか、大阪工事局においては事務補助職を全員雇止にする方針となっていたから希望退職の募集は適切でなかったとか、の理由を挙げるのであるが。これら理由とするところの事実はいずれも、まったく証拠に基づかないものであるばかりか、右理由をもって「不可能」「適切」等の判断自体も極めて恣意的なものであり、この点について、理由不備、経験則違反がある。

更に、上告人は、原審手続きにおいて、配転可能性ばかりでなく、例えば外注の抑制、時間外勤務の抑制など、さまざまな手段により解雇回避義務を国鉄当局が怠ったのであると主張していたにもかかわらず、これらについては一切判断していない点についても、審理の不尽が存するのである。

三 再就職斡旋について

原判決は、第一審判決の再就職斡旋についての判断をそのまま踏襲し、その上で、再就職斡旋の事実からすれば、解雇回避義務なしといえないと結論付けるのである。

しかしながら、被控訴人のなした再就職斡旋はまったく不誠実極まりないものであり、働き続けることさえできないものであったことは、証拠により明らかである。この点につき、上告人は、原審において詳しく論述した。

にもかかわらず、原判決は、右再就職斡旋が、解雇回避義務を免れるものであるほどに、誠意を持ったものであるかについて一切の判断をなすことなく、「解雇回避努力義務違反とならない」と強引に結論つけるのである。初めに結論あり、と考えざるを得ない判決の態度である。まったく、心(ママ)理不尽、理由不備である。

第六 「国鉄は説明協議義務を尽くしていない」との主張についての判断に、審理不尽、理由不備の違反がある。

上告人は、第一審判決が「大阪工事局において、解雇に際して労使協議義務が履行されていないとは言えない」との判断について、原審において、要旨、次のとおり主張した。

すなわち、「整理解雇に際して労使間に置いて協議すべき事項は、人員整理の必要性のみならず、整理方針、その手続(希望退職募集の経由、募集の期間)、人員整理ないし整理解雇の基準とその適用(具体的人選)、解雇基準(経済的処遇)等広範囲に渡るべきである」(大阪高裁昭和五七・九・三〇)とされているのであるが、本件解雇については、これらがなされていない。

国労との団交は、一九八三年(昭和五八年)六月二九日以降、一〇回にわたり行なわれたのであるが、この団交において、当局者は、「既に決定済みであり、一〇月一日以降は雇用できない」との結論を繰り返すばかりであり、協議などといえるものではなく、本来説明・協議をなすべき事項について、一切、説明・協議をしていない。

このことは、当然なされるべき退職金等についての説明をまったくなしていないことに端的にあらわれている。国鉄は、控訴人の退職金について、国家公務員等退職手当法に従った退職金の給付をなすべきであるにもかかわらず、「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」と称する内部通達によって、同法に反する低額の退職金しか給付せず、また、右内部通達に(ママ)の基準適用に際しても、二度にわたって、解雇扱いとして勤続期間を分断して、不当な低額の算定を行っているのである。

こうした退職金の算定基準、算定根拠などについて、国鉄は、本件解雇当時まったく説明をなさず、解雇後何年も経て、控訴人の労働基準監督署など様々な機関や上告人の(ママ)対する問い合わせによってはじめて、真実が明らかになった。このことは、国鉄が、解雇当時、本件解雇をいかに杜撰に行なったかということを雄弁に物語っているのである。

以上の経過よりすれば、本件解雇は、協議を尽くすべき要件を欠き違法であることは明白である。

以上の主張のもとに、上告人は、原審において新たに右退職金問題について詳細に立証をなしたものである。

ところが原判決は、これらの主張、立証にまったく一言も触れず、一審判決をを(ママ)一字一句踏襲したのであり、まるで、原審では一切の主張立証が存在すらしなかった如くである。

まったく審理不尽、理由不備としか言いようがない。これでは第二審の存在意味すらないといえよう。

第七 「本件解雇は日鉄法に違反し、無効である」との主張についての判断に理由不備、審理不尽及び法令の解釈適用を誤った違法がある。

一 右主張について、原判決は、まず「本件契約は、前述のとおり、二カ月の期間を定めた雇用契約であるから、控訴人は、旧日鉄法二六条に照らし……同法にいう国鉄の職員であったとはいえない」旨判示している。しかしながら、本件雇用契約が「二カ月の期間の期間を定めた雇用契約」であることの認定については何ら理由づけはなく、「理由不備、審理不尽」の違法があることは前述したとおりであり、右違法な認定を前提とした右結論が違法なことは明らかである。

二 更に原判決は、「仮に控訴人が旧公労法の適用を受ける職員であるとしても、旧日鉄法二九条が旧公労法による争議行為禁止等の制限を受ける代償措置として定められたものと解することはできないから、旧公労法上の職員であるからといって、直ちに旧日鉄法二九条の適用を受ける職員であると解することはできない」と判示している。しかしながら、右判断は、公労法及び日鉄法の解釈を誤ったものである。

すなわち、公労法と日鉄法の制定、施行経過からみても、公労法と日鉄法は昭和二四年六月から同時に施行され、これにより国鉄職員は国公法の対象から除外されたが、公労法により争議行為の禁止等が定められる一方日鉄法において国家公務員に準じて身分保障を受ける地位におかれたのである。

そして、公労法は当初「職員」の範囲について「二カ月以内の期間を定めて雇用される者」を除外していたのであるが、昭和三一年、「役員及び日日雇い入れられる者」以外はすべて公労法の適用対象となる旨改正された。

右改正は、「多少なりとも」継続雇用される者の労働関係は統一的に処理されることが望ましいとの趣旨により改正されたものであるが、右公労法改正に連動して、本来日鉄法も改正されるべきところ、放置されていたために、「二カ月以内」の雇用者は争議行為禁止等の不利益の下にありながら、日鉄法による身分保障を受けることができないという、憲法二八条で保障されている「労働基本権」が侵害された不合理な状況に置かれているのである。公共企業体職員に対する争議権禁止等の不利益処置は、身分保障等の代償措置が講じられることが合憲の一根拠とされていることは判例上も確立した見解である。

三 かような、公労法、日鉄法の制定経過、制定趣旨及び憲法の趣旨からすれば、日鉄法の職員は公労法の職員とパラレルに考えられるべきである。とすれば、まず第一に本件雇用契約は期間の定めなき契約であるから、上告人は日鉄法上の職員であることは、原審において主張したとおりであるが、仮に期間の定めがあるとしても、日鉄法上、職員として除外されるのは文字通り「二カ月以内の期間を定めて雇用される」短期雇用者に限定されるべきであるから、上告人のごとく、反覆更新されて実質上、期間の定めなき雇用と同視される雇用者は含まれないと解すべきである。

以上、いずれにしても上告人は、日鉄法上の職員であり、身分保障規定が適用される。

よって原判決の判断は公労法及び日鉄法の「法令の解釈適用」を誤った違法がある。

第八 「本件解雇は雇用安定協約に違反し、無効である」との主張についての判断に理由不備、審理不尽の違法がある。

一 右主張について、原判決は「……職員の雇用の安定等をはかるため、右の協定が成立したことを認めることができるが、控訴人ら臨時雇用員が旧日鉄法上の職員とはいえないことは後記のとおりであり、また「免職」、「降職」等協約の文書に照らしても、右協定は専ら職員を対象とするもので臨時雇用員には適用がないと解される」と判示している。

しかし、上告人が、「旧日鉄法上の職員とはいえない」との認定について、「理由不備、審理不尽」及び「法令の解釈適用」を誤った違法があることは先述したとおりである。

二 更に、上告人は原審において、「上告人ら臨時雇用員は旧日鉄法及び公労法上の「職員」であり、又、右雇用安定協約はとりもなおさず、国鉄当局と各組合(臨時雇用員である上告人も国労組合員である)との協議により締結された経過からしても当然上告人らにも国鉄職員として協約の保障が及ぶ」旨主張しているが、右主張について何ら判断を下さず、「免職」、「降職」等協約上の形式的文言を理由として臨時雇用員には適用がない旨結論づけている。しかし、何故に右形式的文言が理由となるのか明らかではなく、右認定には「理由不備、審理不尽」の違法があるというべきである。

第九 「本件解雇は性による差別であり無効である」との主張についての判断に、理由不備、審理不尽の違法がある。

一 一般事務補助職の一律解雇が性による差別であるとの主張に対して、原判決は第一審判決を支持し、「国鉄が男女雇用機会均等法施行前に女性を職員として採用しなかったこと及び女子補助職の職員化を実現させなかったことの当否はともかく、これを違法と断ずることはできないし、雇止めを通告された五九人の臨時雇用員中五三名が女性であったとしても、それは事務補助職をたまたま女性が担当していた結果であって、一般事務職の一律解雇が性別による差別に該当することはできない」旨判示している。

しかし、第一、二審はいずれも右認定を根拠づける説得力ある理由を示していない。

二 すなわち第一、二審において、

<1> 国鉄は昭和二四年の行政整理により女子職員を大量解雇して以来女子職員の新規採用を停止し、九七人の女子職員を採用した同五二ないし五五年を除き、男女雇用機会均等法が施行されるまで女性を職員として採用しなかったこと、

<2> その間、事務補助業務は、臨時雇用員として採用した女性に担当させてきたこと、

<3> 国鉄労働組合は、国鉄当局に対し長年にわたり臨時雇用員の職員化の要求を続け、昭和四一年一二月一七日には組合と当局との間に、

(一) 臨時雇用員が職員採用試験の受験を希望するときは、受験の機会を与えるようにする、

(二) 臨時雇用員は、一定の必要ある場合以外は段階的に解消する旨の了解事項が成立したが、女性事務補助職の職員化は、遂に実現しなかったこと、

<4> 国鉄は、男女雇用機会均等法施行後女性を職員として採用し始めたこと、

<5> 本件雇止めは臨時雇用員制度廃止の一貫としてなされたものであるところ、大阪工事局が同五八年六月二九日に臨時雇用員(一般事務職四九名、守衛六名、雑役四名、計五九名)の削減を提案して以降七人の臨時雇用員が退職したため、同局が同年九月三〇日限りで雇止め措置をとったのは、右退職者を除く事務補助職四三人、守衛・雑役職九人(うち守衛六人は男性)であること。

等の諸事実が認定されている。右諸事実は、まさに上告人らの「本件解雇は、性による差別であり無効である」との主張を根拠づけるものである。

しかるに第一、二審は、右諸事実によれば、「国鉄が男女雇用機会均等法施行前に女性を上告人として採用しなかったことおよび女子補助職の職員化を実現させなかったことの当否はともかく、これを違法と断ずることはできないし、雇止めを通告された五九人の臨時雇用員中五三人が女性であったとしても、それは事務補助職をたまたま女性が担当していた結果であって、一般事務補助職の一律解雇が性別による差別に該当するということはできない。」と判示している。

しかし、なぜ違法といえないのか理由が全く示されていないし、たまたま女性が事務補助職を担当していた結果とする点もすこぶる不当である。国鉄における女性職員の不採用と事務補助職の臨時雇用員制度とは密接に関係する。すなわち、右事務補助職の臨時雇用制度は、昭和二四年以来現在に至るまで継続して採られている性差別的雇用政策の一環である。第一、二審は「その当否はともかくこれを違法と断ずることはできない」と判示しているが、右差別的政策に基づいて女性を正職員として採用せず、女子補助職の職員化を実現しなかったことは明らかに憲法一四条、民法九〇条に違反して無効である。また、「事務補助職をたまたま女性が担当していた結果」というようなものでは決してない。国鉄は人件費抑制と景気変動の調節弁としての役割を女性におしつける意図のもとに、女性職員の採用は電話掛、バス車掌、医療関係の専門職に原則として限定し、それ以外についてはこれを事務補助職とし、かつ臨時という不安定な雇用形態でしか女性を採用してこなかったものである。

そして、事務補助職の女性だけが職員化の機会を与えられず、低賃金と劣悪な労働条件で継続勤務させられた。大阪工事局においても、臨時雇用員は事務補助職として各職場において恒常的で事業運営に不可欠な業務に従事してきたが、職員化の途は閉ざされていた。

右国鉄の女性差別の労務対策や労働実態に照らすと、本件解雇は明らかに基準に合理性を欠き、無効である。実質的には女性を対象とする整理解雇である。

三 本件解雇は「男女別コース制雇用管理」の結果として、女性を解雇したものであり、性別による差別的解雇であり無効である。

国鉄は、昭和二四年以降女性職員の新規採用を停止し、同五二年ないし五五年を除き、男女雇用機会均等法の施行までに女性を正規職員として採用しなかった。その結果、右五名の女性職員が順次退職していっても人員は補充されず、昭和六二年に曽我部が退職すると同時に女性職員はいなくなった(<人証略>)。

国鉄のこうした雇用方針の結果、女性職員が減少するのと対照的に、「事務補助職」として採用された女性臨時雇用員の数は年々増加し、各職場に常態的に存在することになった。

上告人ら事務補助職は、本来、建前上、金銭の取り扱いは認められていなかったにもかかわらず、金銭を扱うという側面も有しており、責任ある独立した業務内容であり、決して単なる職員の手伝いというようなものでないことは明らかである。そして実際は職員と臨時雇用員を職務内容で区別することはできない状況であった。

大阪工事局内でも臨時雇用員は、本来正規の職員にしか取り扱わせないとされていた乗車券類の発行や旅費や給料等の金銭の取り扱いをしていた(<証拠略>)。

右のとおり、控訴人ら女性臨時雇用員の職務内容は臨時的・暫定的なものではなく、工事局にとって恒常的で事業運営に不可欠な業務であり、まさに一般事務職員の仕事内容であった。

しかるに国鉄は、一般事務職員と同じ内容の仕事をしている女性の臨時雇用員を終身雇用といえるほど長期に亘って雇用を継続しながら、正職員への道を閉ざし低賃金と劣悪な労働条件の下で働かせていた。

以上のような臨時雇用員の歴史的経過及び職務内容から見れば、国鉄は、本来正規職員として雇用すべき女性事務職員を臨時雇用員として雇用し、臨時雇用員制度の解消及び職員化の協定を締結したにもかかわらず、人件費抑制と景気変動の調節弁としての役割を女性におしつけるという差別的労務政策によって臨時雇用員の身分のままに据え置き、低賃金と劣悪な労働条件におさえてきた。

このような国鉄の女性を正規職員から排除し、臨時雇用員として、更に臨時雇用員中事務補助職として限定・固定化し、これを前提として採用及び賃金・昇進等別立てのコースをもうけるという「事務補助職」制度は、「男女別コース制雇用管理」として機能している。かような「男女別コース制」は、まず募集・採用における男女差別という点で雇用機会均等法七条はもとより、憲法一四条、民法九〇条に違反して無効である。

そして、国鉄は、臨時雇用員制度の解消及び職員化の協定を締結しながら履行せず、大阪工事局では男性のみを、職員化し、「整理解雇」という名の下に、不当にも女性臨時雇用員を真っ先に解雇した。このような本件臨時雇用員の一律解雇は、右「男女別コース制雇用管理」の結果として、実質的には女性を対象とした整理解雇であり、差別的解雇であり、積極的な女性の切り捨てである。判決のいうがごとき事務補助職を「たまたま」女性が担当していた結果などではない。

四 以上述べたとおり、国鉄の差別的雇用政策下の(ママ)おける事務補助職の労働実態にてらせば、本件解雇は明らかに女性を対象とする整理解雇であり憲法一四条、民法九〇条に違反して無効である。しかるに、第一、二審ともに何ら違法ではないという理由を示さず「当否はともかく違法と断ずることはできない」「事務補助職を女性がたまたま女性(ママ)が担当していた結果にすぎない」と判示しており、明らかに理由不備、審理不尽の違法がある。

第一〇 「本件解雇は解雇権の濫用であり無効である」との主張についての判断には、理由不備、審理不尽、経験則違反の違法がある。

一 原審における上告人の主張

上告人は、原審において、被上告人が職員と臨時雇用員との間には採用形態・条件、労働条件等に差異をもうけたこと自体が、解雇を制限する判例法理を潜脱し、職員に比べ不当に低い労働条件での雇用を意図した脱法的な行為である。被上告人が、かかる自らの脱法的行為の結果である職員と臨時雇用員の採用形態・条件、労働条件等の差異を理由に、解雇の必要性や合理性判断において正規の職員と差別をもうけ、臨時雇用員を一律に第一順位として解雇することは解雇権の濫用にあたり違法無効であると主張した。

そして、被上告人の脱法的行為として、以下の具体的事実を指摘した。すなわち、第一に、臨時雇用員制度を存続させる合理的理由が全く存在していなかったこと、本件雇用契約は二カ月の期間の定めは形式にすぎず当初より長期雇用を前提とした期間の定めのない雇用契約であったこと、にもかかわらず、被上告人が臨時雇用員制度に固執したのは、解雇を制限する労基法、判例法理を潜脱する違法な目的ゆえにとしか考えられないことを論証した。第二に、上告人ら臨時雇用員の採用条件の違いは、被上告人の女性差別の結果であることを論証した。第三に、上告人ら臨時雇用員と正規の職員との間の労働条件の差こそ、まさに被上告人が意図した違法不当な差別であることを論証した。そして、被上告人の違法な差別の具体例として、上告人ら臨時雇用員は本件解雇に際し、国家公務員等退職手当法・雇用保険法・労働基準法に違反した本来支払われるべき退職金の半分にも満たない退職金しか支払われていなかった事実を示した。

二 原判決の違法性

(1) これに対し、原判決は、「本件雇止当時の事情に照らし、臨時雇用員である女性事務補助員を職員に先立ち雇止めすることが合理性に欠けるものといえないことは、前記認定、判断のとおりであ」るとして、本件解雇が権利濫用には当たらないとしている。しかし、「前記認定、判断」が何を指すかは不明である。

確かに、原判決は、第一審の判断を文字通り引写し、「臨時雇用員たる一般事務補助職を一律に第一順位として雇止めするのも不合理とはいえない。」と判示し、その理由として「職員と臨時雇用員とは採用形態・条件、職務内容、労働条件等を異にして」いること、「臨時雇用員たる一般事務補助職の職務は職員により代替可能であること」等を挙げている。

しかし、原審において上告人が主張したのは、正に、第一審が臨時雇用員の一律に第一順位として雇止めの合理性の根拠とした職員と臨時雇用員とは採用形態・条件、職務内容、労働条件等こそが、被上告人の違法な目的に基づく脱法行為の結果であるという点である。

かかる上告人の主張に対し、何らの判断を示すことなく漫然と、第一審の判断を引写して恥じない原判決は、審理不尽ないし理由不備の違法がある。

(2) また、原判決は、「国鉄が控訴人に対し正当な退職金を支払わなかったこと等」の事実は、「本件雇止め事由と直接関係するものではなく解雇権濫用の事由となるものでもない」とする。

しかし、退職金の支給は雇用条件、解雇手続きにおいて最も重要な要素であることは疑いない。かかる退職金の算定における明白かつ意図的な法令違反が、「雇止め事由と直接関係するものではなく解雇権濫用の事由となるものでもない」とは、経験則に反し不合理な判断と言わざるを得ない。

かかる原判決は、審理不尽、理由不備、経験則違反の誹りを免れえない。

以上

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